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火山噴火直後の植生侵入と菌根共生-----北海道有珠山

 有珠山は北海道南西部の胆振地方、洞爺湖と内浦湾の間に位置する(42°32′N、140°50′E)標高733.1mの活火山です。有珠山は1663年以降、数十年周期で噴火活動を繰り返していて、2000年3月31日に、1977〜1978年の噴火以来22年ぶりに噴火しました。今回の噴火活動では、有珠山の西山山麓と金毘羅山西側山麓に新たな火口群が形成され、火山灰や噴石が噴出しました。また、両火口群付近から流下した泥流が火口群周辺や洞爺湖温泉街に堆積し、道路、建物などに被害を及ぼしました。その被害額は関係市町村で約233億円に達したと報告されています。


 噴火前の西山斜面の植生はカンバ類やカエデ類などの広葉樹天然林でした。これらの森林の噴火活動による被害は、おもに噴出物の降下・堆積、泥流や地殻変動の発生によるもので、被害面積は民有林で36ha、国有林で35ha、合計71haでした。

 1977〜1978年の噴火時には大量の噴出物の降下・堆積によって総計8000ha以上に及ぶ広範囲の森林が被害を受けたことから比較すると、被害は軽微と考えられますが、火口付近は前生植物が全く無い裸地となっており、小規模ではあるが崖崩れや土砂流出が起きているため、早急な緑化・砂防対策が必要とされます。


 私たちは、噴火活動終息後2年経った2002年から現在(2007年)まで、西山火口付近の噴出物が堆積した裸地において、植生の発達過程と、木本植物の消長及び成長の過程を追跡調査しました。2002年では、木本植物7種、草本植物20種が確認され、植物による被覆率は約20%程度で、調査地は殺伐とした光景でした。しかし、時間とともに種数、被覆率は増加し、今では木本植物20種、草本植物40種が確認され、被覆率は約70%程度まで回復しました。主に被覆の増加に貢献していたのはスギナやオオイタドリ、アキタブキ、オオヨモギなど、畑地や道路脇など開けた立地に侵入する多年生草本植物でした。木本植物ではドロノキ、オノエヤナギ、エゾノバッコヤナギなど河畔や荒廃地に侵入するヤナギ類と、イタヤカエデが多く確認されました。全種類合わせた実生の個体数密度は2002年の約500本(/ha)から2006年には約1140本(/ha)にまで増加しましたが、以前その数は少ない状況にあります。ただ、優占していたヤナギ類は生残率が高く、毎年比較的良好な樹高成長を示していたので、彼らの成長を通じて森林再生が展開されていくことが期待されました。


 調査地で確認された主な草本植物15種、木本植物9種における菌根の形成状態を2005年に調べました。草本植物は全種において、高頻度でアーバスキュラー菌根の形成が確認されました。木本植物はアーバスキュラー菌根、または外生菌根のいずれかの形成が必ず確認されました。特に優占樹種ドロノキ、オノエヤナギ、エゾノバッコヤナギには全個体で外生菌根が確認されました。植生回復の初期段階の立地においても、植物の定着に菌根菌が関わっていることが予想されました。


 調査地における外生菌根菌の多様性を明らかにするため、キノコの発生状況を2004年から現在まで調査しました。2004年には調査地において外生菌根菌のものと思われるキノコの発生は確認されませんでしたが、2005年にウラムラサキ、キツネタケ、クロトマヤタケ、ワカフサタケのキノコが初めて確認されました。これらは噴火後すぐに定着したと思われる樹高50cm程度のヤナギ稚樹の周りで確認されました。2006年には新たに3種を加えた7種が確認されています。


 調査地の優占樹種の一年生個体と共生関係を築いている外生菌根菌の多様性、種構成を2005年に調査しました。一個体当たり1〜2種の外生菌根菌と共生関係を築いていることが分かりました。個体ごとに共生している菌種は大きく異なりましたが、キノコとしても発生していたウラムラサキ、キツネタケ、クロトマヤタケ、ワカフサタケやイボタケを含むイボタケ科の菌類と主に関係を築いていることが分かりました。

 優占的に確認された外生菌根菌4種を用いて接種試験を行ない、その共生効果を調査しました。樹種はドロノキを、土壌は調査地の火山灰土壌を用いました。菌の種類によってその成長促進効果は異なり、根よりも葉と茎の成長を促進させるものや、逆に根の成長を促進させるものなど様々でした。しかし、外生菌根菌の種類によらず、菌の接種によってドロノキの成長は大きく促進されることが分かりました。


 以上の研究から、荒廃地における樹木の定着において外生菌根菌は重要な役割を担っていることが分かりました。

 道内には有珠山の他にも駒ケ岳のように火山活動を続けている火山があり、噴火による森林被害が発生する可能性を常に抱えています。火山噴火という数少ない自然現象をとらえて、被災地の植生回復に関する情報を蓄積していくことは、将来の噴火災害時の復旧対策や、火山周辺での森林計画立案などに貴重な情報を提供することになります。また植物の定着において重要な役割を担う菌根菌の生態や機能を明らかにすることは、効率的な緑化施工等の一助となると期待されます。

 森林資源生物学分野では、火山性撹乱地における植生回復のプロセスをおっていくと同時に、それに伴う窒素固定菌や菌根菌などの土壌微生物と植物との関わり合いを明らかにしていこうと思います。






 


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